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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.03 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

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2020.05.19

 

映画感想文  /「パターソン」

 

 

映画という表現形態が大好きです。

 

音楽にドップリとハマる以前の、小学生真ん中くらいまではバリバリの映画少年でした。

毎月、映画雑誌を読み漁り、放課後にバスに乗って街の映画館に行ったりしていました。(田舎だもんで)

 

どうでもいい話ですが、当時の高知県ではどういうわけか、普段ピンク映画を上映している小さな劇場でハリウッド系の新作映画が公開されることがたまにあって、それにも何度か行きました。

(しかも、シュワルツェネッガー映画とジャッキー・チェン映画の二本立てだった記憶がある。)

 

まだシネコンなどはなく、公開初日には長蛇の列が並び、席は固く、前に背の高い人が座ればすぐにスクリーンが見えなくなり、更には満席で立ち見することもざらにあったような時代の話です。

 

懐かしい想い出です。

 

ちなみに、人生で最初に本格的に憧れた職業も、映画監督でした。

 

 

前置きが長くなりましたが、せっかくこんなに文章を書ける場を設けて頂いたので、好きな映画についても今後書いていこうと思っています。

 

まず手始めに、ここ数年で僕が観た映画の中でも特に心に残った、ジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」(2016)について書いてみようと思います。

 

 

アメリカの片田舎、ニュージャージー州パターソンに暮らすバス・ドライバーの男性の日常を描いた作品です。

 

この主人公の名前が、土地の名と同じくパターソンといいます。

奥さんと愛犬と暮らしています。

 

彼は普段あまり多くを語らない、寡黙な性格をしているんですが、実は詩を書くことが趣味で、暇を見つけては「秘密のノート」に、奥さんへの愛情や、日々に感じたことを題材にした詩を綴っています。

 

映画は、そんな彼のある一週間の生活を1日ごとに描き、細やかな感情の推移を捉えていきます。

 

「詩」が大きなモチーフとなっている物語ですが、映画の作り自体も、まるで詩のように反復し、隠喩が散りばめられ、韻を踏むような構造になっています。

 

まず、1日が必ず、パターソン夫妻が朝目覚めるシーンで始まります。

 

それから、朝食を食べて、職場に向かい、軽く同僚と話してからバスに乗り込み、乗客の会話に耳を傾けつつも真面目に働き、夜は奥さんと晩御飯を共にしたのち、犬の散歩に出かけ、その途中、馴染みのバーに立ち寄って一杯ひっかける。

 

一週間毎日、この流れがほとんど変わらず規則的に繰り返されます。

 

その大枠はなぞられながらも、朝起きる時間がちょっとずつ違っていたり、これは当たり前ですが、人との会話の内容も毎日違っていたりというような、ちょっとした変化が丁寧に、かつユーモラスに描かれています。

 

またその「変化」の一例として面白いのが、映画が始まって最初の朝に、目覚めた奥さんが「双子を授かる夢を見た」と言うのですが、そのことが意識に残ったのか、パターソンは街のそこここで不思議と様々な双子の姿を見かけるようになります。

 

その後、色んな形で双子というモチーフが現れ、姿を変えながらも反復していきます。

その双子達が、直接物語に大きな影響を及ぼすというわけではないんですが、バリエーションが面白く、作品にユニークな陰影を与えているように思います。

 

ともあれ物語は進み、後半にちょっとした出来事があって、パターソンの日常に少しだけ揺らぎが生じます。

 

その出来事によるちょっとした紆余曲折を経て、パターソン夫妻にまた新たな一週間の始まりが訪れます。

 

粗筋を書くと、それだけの映画です。

 

それだけの映画なんですが、僕はこの作品に、人間にとっての「豊かさ」の、一つの定義をさりげなく提示されたような思いがしました。

 

寡黙なパターソンは詩を書いても、それをsnsやブログにあげるようなことをしません。

彼と対照的に活発な性格の奥さんは、せめてコピーだけでもとっておいてと懇願しますが、それにすら消極的です。

 

パターソンは自分のためだけに詩を書いているように見えます。

日頃からあまり感情を表に出さないし、ともすれば非常に内に閉じているように思えます。

 

しかしその実、とても感受性に富み、他人に対しての思いやりに溢れた愛すべき人物です。

 

彼にとって、詩作とは、世の中に自分の考えを宣言するような大それたものではなく、ましてや承認欲求を満たすようなものでもなく、もっと自然と衣食住と地続きにあるような、ごく個人的な営みなんだと思います。

 

パターソンの日常は、あまり代わり映えしない、ごく平凡なものです。

 

しかし、詩作という、いってみれば世界を自分の中で再構築するような行為を通して育まれた洞察力や感受性によって、そのような日々であっても、何にも代え難く、愛おしく感じられるのでしょう。

 

そんな、深く愛する対象を持つ彼の心は、多少の浮き沈みはあれども、穏やかに満たされた状態を保っているんだと思います。

 

その暮らしぶりは、表面的には質素なように見えたとしても、実はこの上なく豊かなものなんじゃないかと、僕には感じられました。

 

この映画では「詩作」という形で語られていますが、何でもいいんだと思います。

そこに何か自分と向き合うような瞬間や、ちょっとした創意工夫があるだけで、日常のモノの見方や、心の在り方がガラッと変わるようなこともあるんだと思います。

 

主演のアダム・ドライバー(パターソンに住むパターソンという名のバス・ドライバーをアダム・ドライバーが演じている)、非常にチャーミングな奥さん役のゴルシフテ・ファラハニをはじめ、終盤に登場する永瀬正敏さんや、ちょい役ですが印象深いウータン・クランのメソッド・マン、そして本作でカンヌ映画祭パルム・ドッグ賞を受賞した愛犬マーヴィン役のブルドッグ、ネリーなど、出演者さん皆さん本当に素晴らしく、繰り広げられる会話ややりとりにも、とても深い味わいがあります。

 

何度も見返して、人生の友にしたくなるような普遍的な魅力に満ちた作品ですが、なにかと心が疲弊しやすい近頃の世の中にあっては、なお一層、描かれているテーマに感じ入るものがあります。

 

それにしても、ああ犬を飼いたい。

 

 

 

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

Mori Zentaro:

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