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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.06 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

COLUMN MUSIC

2020.06.30

 

私的名盤選

 

Stevie Wonder 「Music Of My Mind」(1972)

 

 

レコード、カセット、CD、MD (!!)、そしてサブスクリプションと、 テクノロジーの進化とともに音楽観賞のスタイルは変わっていくもので、その流れの中で録音作品の表現形態も常に変化しています。

 

サブスクが主流となった昨今、徐々に「アルバム」というフォーマットで発表される作品が少なくなってきていますが、CD全盛の時代に音楽の森に迷い込んだ僕としては、「アルバム」としてまとめられた作品には、特別な思い入れのあるものが多いのです。

 

ですので、そんな「名盤」の数々を僕なりの視点で紹介していきたいと思います。

 

 

今回は、Stevie Wonderの「Music Of My Mind」を紹介させて頂きます。

 

 

1972年発表。

当時弱冠21歳のスティービーがほぼ全ての作曲、

歌唱、楽器演奏、プロデュースを自らこなして作りあげた作品です。

 

厳密には共作曲が3曲あり、GtとTromboneでゲストが参加、プロデュースもマルコム・セシル、ロバート・マゴーレフとの連名なので完全にセルフメイドというわけではないのですが、それまではモータウンのポップ・スターとしての印象が強かったスティービーが、初のセルフ・プロデュース作である前作「Where I’m Coming From(邦題 / 青春の軌跡)」に続いて、アーティストとしての着実な成長を示したアルバムです。

 

完成度としては、その後に続く「黄金期3部作」とされる「Talking Book」「Innervisions」「Fullfillingness’ First Finale」に譲るかとは思いますが、僕は本当にこのアルバムが大好きです。

 

僕がこのアルバムと出会ったのは19歳の時で、10代を通して熱狂的に追いかけていたロック全般だけでは満足出来ないと感じ始めて、もっといろんな音楽を聴いてみようとしていた頃のことでした。

 

そんな時「そういえばスティービー・ワンダーってなんか知ってるようで、ちゃんと聴いたことないな」と思い本作を手にとりました。

 

そうして初めて聴いた時の感動と衝撃は、僕のリスニング歴の中でも屈指のものでした。

 

まずダイレクトに感じたことは「自由」「喜び」「開放感」「生命力」といったような感覚でした。

 

「Music Of My Mind」というタイトル通りに思うがままに自己を表現しているような、瑞々しく、いきいきとしたテンションを強く感じました。

 

個人的な話ですが、このアルバムのそんな雰囲気には、自分のアイデンティティーや将来のビジョンを掴みきれずにもがいていた当時の僕にとても強く訴えてくるものがありました。

 

これは後々知ったことですが、このアルバムは、スティービーが所属レーベルであるモータウンと多少モメながらもセルフ・プロデュースの権利を勝ち取り、改めてアーティストとして歩み始めたばかりの頃に作られたもので、そんな背景が、自分の心情とどこかでリンクしたということもあるかもしれません。

 

思えば所謂「ブラック・ミュージック」と呼ばれるような音楽に目覚めたきっかけも、このアルバムでした。

 

「Music Of My Mind」というアルバム・タイトルはシンプルながら、非常にうまく内容を言い表していると思います。

 

ファンキーだったりメロウだったりする各曲は、作り自体は比較的シンプルなものが多いんですが、どの曲にもこのアルバムならではと言える、独特で魅力的なサウンドが宿っています。

 

とても有機的で暖かくて、どこか奇妙な感じもするサウンドなんですが、その鍵となっているのが、共同プロデューサーのマルコム・セシルとロバート・マゴーレフの尽力によって全面的に導入された「シンセサイザー」の存在です。

 

moogやarpなどを組み込んだ、巨大シンセサイザー「T.O..N.T.O」が、ピアノなどの従来の楽器だけでは自分の頭の中にあるサウンドを具現化できないと感じていたスティービーに新たな表現の可能性を提示しました。

 

このアルバムから「喜び」のようなフィーリングが多分に感じられるのには、天才的な楽器演奏者であるスティービーが、そんな新しい表現方法と出会ったということも関係しているんじゃないかと思います。

 

(少し余談ですが「シンセサイザー」という電子楽器が、この作品で聴けるみたいに、時としてアコースティック楽器よりも人間味や暖かさを感じさせるのは、つくづく面白い現象だなと思います。)

 

ともあれ、様々な要因が絡み合ってスペシャルなサウンドを獲得している本作ですが、

中でも個人的に圧巻だと感じるのがM2「Superwoman (Where were You When I needed You)」です。

 

 

出だしからアルバム全体を象徴するようなシンセのサウンドが独特な浮遊感を醸し出していますが、前半と後半で曲調が切り替わる2部構成となっていて、特に2部の導入部の、風景や感情が湧き上がってくるような展開は本当に見事だと思います。

 

その他の曲もポップな「I Love Every Little Thing About You」や、今聴いても驚くほどに新鮮な響きのあるバラード「Girl Blue」など素晴らしいんですが、やはり僕はこのアルバムに関しては、全体で一つの作品というような印象を強く受けます。

 

前述したように、完成度という点では次作以降のレベルには達していないかもしれませんが、それを補って余りあるほど、この作品の全編に漂う、表現欲求に突き動かされるようなクリエイティブな雰囲気は特別なものだと感じます。

 

このアルバムと出会って15年ほど経ちますが、折に触れて聴き返したい大切な作品です。

 

 

 

(オマケ)併せて聴いて頂きたいアルバム

 

Zero Time / Tonto’s Expanding Head Band (1971)

 

 

共同プロデューサーのマルコム・セシルとロバート・マゴーレフのユニットによるアルバムで、これを聴いたスティービーが二人にコンタクトを取ったことが、その後のスティービーのシンセ・サウンドを形成するきっかけとなりました。

 

 

Where I’m Coming From / Stevie Wonder (1971)

 

 

「Music Of My Mind」の前作に当たる作品で、スティービーが初めてセルフ・プロデュースに挑んだアルバムです。全曲がスティービーと当時の奥さんのシリータ・ライトによる共作で「If You Really Love Me」や「I Never Dreamed You’d Leave In Summer」などの名曲が収められています。

 

まだシンセが導入されていないこのアルバムと「Music Of My Mind」を聴き比べると、シンセがいかにスティービー、ひいてはその後のポップミュージック全体に影響を与えたかが伺えるようで、とても興味深いです。

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

Mori Zentaro:

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Soulflex:

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