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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.09 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

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2020.08.11

 

私的名盤選 vol.02

 

Super Furry Animals 「Rings Around The World」(2001)

 

 

サブスク全盛の今に問う「アルバム」作品の素晴らしさ。

 

私的名盤選第2回は、イギリスはウェールズ出身のロック・バンド「Super Furry Animals」が

2001年に発表した5th album「Rings Around The World」を紹介いたします。

 

(アルバムアートワーク )

 

僕がこのアルバムと出会ったのは、リリース当時たまたま深夜のラジオで収録曲の「Run! Christian, Run!」を耳にした時でした。

 

その儚げな曲調と広がりのあるサウンドにとても胸を打たれ、そのラジオ番組を手動で録音したMDをその後しばらくたくさん聴いていました。

けど当時中学生だった僕は、お小遣いの範囲で購入するCDを厳選せねばならず、なかなかアルバムまで手が届かずにタイミングを逃し逃し、結局ちゃんとアルバムを通して聴いたのは成人してからのことでした。

 

その「Run! Christian, Run!」の印象がずっと残っていて、アルバムをやっと手に入れた時は相当な期待を抱いていたんですが、その期待を遥かに上回るような作品で、今に至るまで繰り返し何度も聴いています。

 

この作品がリリースされた2000年前後は世界的に世の中が不安定で(今もですが)、このアルバムのリリースの約二ヶ月後には、アメリカ同時多発テロが起こっています。

 

そういった世相を反映してか、この周辺の年に作られたロック・アルバムには独特なテンションを持ったユニークな作品がたくさんあるなと感じるんですが、この「Rings Around The World」はその中でもとても完成度の高い作品だと思います。

 

CDのライナーノーツによると、フロントマンのグリフ・リースはこのアルバムを「地球とスペースの汚染、そして破壊の傷跡についてのアルバム」だと語っています。

 

 

(リリース当時のSuper Furry Animals)

 

 

つまりかなり意図的にメッセージ性が備えられたアルバムなのですが、僕がすごいと思うのは、わざわざ歌詞を読まなくても、聴くだけで明らかにこのアルバムが何らかの「物語」や「メッセージ」を持っていると強く感じられることです

 

僕はそこまで英語に堪能ではないので、最初に聴いたときには歌詞の内容がはっきりとはわかりませんでしたが、曲やサウンド、アルバム全体の流れなどにとても強いストーリー性を感じました。

通して聴き終わった時には、大作映画を観た後のような感動が胸に残るほどでした。

 

 

静かなピアノの響きから、徐々に楽器が加わっていき、ゆっくりと空間が広がっていくようなM1「Alternate Route To Vatican Street」から、何かが始まるような、予感めいたフィーリングに満たされます。

 

そこから一転してM2「Sidewalk Serfer Girl」M3「(Drawing)Rings Around The World」では賑やかなロック・サウンドが展開され一気に勢いとスケール感が増し、センチメンタルかつ壮大なM4「It’s Not The End Of The World」へと繋がり最初の山場を迎えます。

 

弦楽器を従えた至極メロディアスな曲調もさることながら、言いようのない不安を歌いつつ「別に世界が終わるわけじゃないんだから」と結ぶ歌詞にも真に迫るものがあり、この曲の存在一つとっても、リリース当時よりさらに世の中が混迷している今、このアルバムを振り返る意味があるんじゃないかと思います。

 

そこからは、一曲の中で目まぐるしく曲調が変化する「Receptacle For The Respectable」、不穏なムードのインスト「(A)Touch Sensitive」、オーケストラルなソフト・ロック「Shoot Doris Day」など非常にバリエーション豊かな曲が続きます。

 

この中盤の流れもとてもユニークで、アルバム全体の緩急をより豊かなものにしていると思います。

 

そして後半の怒涛の展開を告げるのがソウル・ポップな趣のM10「Juxtapozed With You」です。

小躍りしたくなるような楽しい曲調に乗せて、他者との違いを認めて寛容になろうというようなテーマを歌っています。

 

そこに続くM11「Presidential Suite」もリッチなアレンジが際立つアルバム屈指の名曲なんですが、ここでは甘美なメロディに乗せて政治家を盛大に皮肉っています。

このバンドは、このひねくれた感じも魅力です。

 

そしてここで、先述の通り僕がとても思い入れを持っているM12「Run! Christian, Run!」が登場します。

アルバムの流れの中で聴くと、ラジオでこの曲だけを聴いたときとはまた違ったストーリーを感じました。

初めてアルバムで聴いた時は、大袈裟じゃなく鳥肌が立つような、胸がいっぱいになるような気持ちになりました。

曲自体は穏やかで牧歌的ですらあるのに、なんとも言えない迫力というか、凄みを感じます。

歌詞ではキリスト教の功罪について歌われているので、そういった気迫を感じるのかもしれません。

いずれにせよ、これ以上ないクライマックスだと思います。

 

そして、子守唄のように優しい「Fragile Happiness」がエンドロール的にアルバムを締めくくります。

 

先にも書きましたが、ここまで通して聴くと本当に一つの物語が終わったような、内容の濃い映画を観終えたような感覚に捉われます。

 

本当に素晴らしいアルバムだと思います。

音楽で物語を語るということを高い完成度で実現している作品だと思います。

 

音楽だけでなく、バンドと同じくウェールズ出身のイラストレーターPete Fowlerによるアートワークもアルバムのトータル性に一役買っているように思います。

(このことを考えると、やはりアルバム作品にはフィジカル形態が適しているのかなと思います。)

 

こんなに凄いのに、それに見合うほどには語られていない作品だと思います。

 

是非じっくり耳を傾けてみてください。

 

 

 

(オマケ)併せて聴いて頂きたいアルバム

 

・Radiohead / 「Kid A」(2000)

 

 

「Rings Around The World」の前年秋にリリースされた作品で、当時を代表する「ロック・バンド」だったRadioheadがギター・サウンドをほぼ完全に捨て去り、AutechreやAphex Twinなどの影響下にあるようなエレクトロニカ的作風を大胆に打ち出して、大変な物議をかもした作品です。

 

「Rings Around The World」もエレクトロニカ的な要素がサウンドのキーとなっていて、同年代の作品として聴き比べると面白いです。

 

 

・Pavement / 「Terror Twilight」 (1999)

 

 

 

そのRadioheadのメイン・プロデューサーであるNIgel Godrichがプロデュースした作品で、こちらは比較的ストレートなギター・ロック作です。

 

しかしこれも90年代後期~00年代初頭のムードが濃密に感じられる名作です。

 

ラフなサウンドが特徴だったPavementですが、Nigelと組んだ本作はより緻密なアレンジが施され、バンドの新しい領域を開拓した作品となりましたが、残念なことにこれ以降新しい作品は作られていません。

 

 

・The Flaming Lips / 「The Soft Bulletin」 (1999)

 

 

80年代から活動しているアメリカのインディー系ロック・バンドの9枚目のアルバム。

 

プロデューサーのDave Fridmannと組んだ本作はシンフォニックでドリーミー、かつアイデアに満ち溢れたサウンドが本当に本当に素晴らしいです

 

M1「Race For The Prize」の歪んだドラムが炸裂するイントロからマジックが起きています。

 

「Rings Around The World」を聴いた時、真っ先に連想したのがこのアルバムでした。

 

メロディアスな楽曲と非常に広がりのある多彩なアレンジというソフト・ロック的な佇まいに、共通したものを感じます。

 

大作感と、「トータル・アルバム」的な聴感があるのも似ています。

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

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