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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.11 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

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2020.09.08

 

もののけ姫を観た夏

 

 

2020年のことをこれから先振り返る時、思い出すことは山のようにあると思います。

多くの人にとって非常に混沌とした一年として記憶されることは間違い無いでしょうが、僕にとってのごく個人的な思い出として、映画館で「もののけ姫」を観たということも忘れ難い出来事になりました。

 

 

「ジブリ作品」や「アニメ映画」云々抜きに単純に映画としてずっと好きな作品なので、97年の公開当時に母に連れられて劇場へ足を運んだ時以来、また映画館で観れるのが本当に嬉しく、公開の情報を目にした時は歓喜しました。

 

その97年の初見の時は、子供心に「恐ろしい」「気持ち悪い」「悲しい」などの印象がトラウマ的に強く焼き付いていましたが、その後何度も観賞するうちに、その壮大な世界観や、物語の芯の太さ、キャラクターの魅力、緻密な映像表現などに深く魅了されていきました。

 

宮崎監督が、12年に及んだ「風の谷のナウシカ」漫画版の連載を完結させつつ「魔女の宅急便」「紅の豚」では棚上げになっていた(特に後者は監督自ら「モラトリアム映画」と称している)、「未来少年コナン」から続く「自然と人間」という大きなテーマを、ついに限界まで描き切った作品なんじゃないかと思います。

 

冒頭の「ドーン」という効果音が鳴る瞬間から、宮崎作品では初めての黒塗りのエンドロールに至るまで、尋常ならざる気迫に満ち満ちているようで徹頭徹尾圧倒されます。

 

完成後、監督が引退を宣言したのも納得してしまいます。

 

照葉樹が鬱蒼と生茂る原生林の美しくも恐ろしいような佇まいや、アシタカとサンが出会う時、何かを予感させるようにフワッと風が吹く描写などの細やかな表現にもいちいち濃厚に、生命力や、そこにちゃんと世界が存在しているような奥行きが感じられ、感動してしまいます。

 

ディダラボッチが倒れ、厳粛たる神々の森は明るく親しげな里山へと姿を変え、タタラ場は半ば廃墟と化し、人々は皆満身創痍の終盤。

そこには未解決の矛盾や問題は山積していても、浄化やカタルシスは微塵も存在していません。

最後の最後で、新芽の芽吹く森の奥深くに一匹のコダマ(木々の精霊)が現れるラストシーンは、山の復活の象徴のようにも、衰退の象徴のようにも見え、いずれにせよアシタカが選択した「共に生きる」道の先にある困難を物語っているように思います。

 

けれど、だからこそ「生きろ」というメッセージが重く、リアルな感触を伴って胸に響くのだと思います。

 

謂れのない呪いを受けて故郷を追われ、行き着いた先で、生きるために山を刈るタタラ場の人々と、森を取り返し守ろうとするサンや神々と出会ったアシタカは曇りなき眼で物事を見定め」決めた末に、どうしようもない不条理や矛盾を抱えつつも最善を尽くしながら、映画で語られた物語の後も生きたのだと思います。

 

コロナや巨大化していく自然災害などの脅威や、気候変動、海洋プラスチックなどの環境問題、格差や差別などの社会問題が以前にも増して日常と分かち難いものになりつつある現在、このアシタカの姿が語りかけてくるものは97年の公開当時から依然として、或いはそれ以上にとても多いのではないかと感じます。

 

観賞後に感じた打ちのめされたような、虚脱感も孕んだような大きく複雑な感動の底には、画面の向こうで繰り広げられた物語が潜在的に、今この時、この時代の空気と共振したような感覚があったように思います。

 

入館前に検温が実施され、1席ごとに間隔の空けられた少し寂しげな映画館で「もののけ姫」を観たことは、一生の想い出です。

 

 

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

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Soulflex:

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