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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.14 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

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2020.10.20

 

私的名盤選vol.03

 

Tim Hardin / Bird on a Wire (1971)

 

 

Tim Hardin。

この名前を聞いてピンと来る人が今、日本にはどれだけいるんだろうか。

 

自分が物知りだとかエラぶりたい訳ではなく、ついそんなことを考えてしまうくらい、自分が口にする以外に、実生活でこの名前を聞いた試しがない。

 

そんなTim Hardinというアーティストの「Bird on a Wire」というアルバムを聴くと、世間の認知度と音楽の質の高さは必ずしも結びつく訳ではなく、どれだけ素晴らしい作品でも、時の流れに埋もれてしまうことがあるんだなと、つくづく思います。

 

 

Tim Hardinは1940年に米オレゴン州で生まれ、60年代に当時フォーク・ミュージックのメッカであったNYのグリニッジ・ヴィレッジでシンガー・ソングライターとしてキャリアをスタートさせた人物です。

 

所謂「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的な気質のアーティストで、自分で歌っているオリジナル・バージョンは生前ほとんど鳴かず飛ばずだったのに、1st album 収録の「Reason To Belieave」がRod StewartやThe Carpentersなどに、続く2nd album収録の「If I were Carpenter」がBobby DarinやFour Topsなどにそれぞれカバーされるなど、キャリア初期から作品そのものは高く評価されていました。

しかし、本人自身は薬物中毒などの問題を抱えていたりと、性格に破滅的な傾向があったらしく、上記の作品以降も革新性と質を備えた作品を多く発表しながらも、キャリアは低迷していき、ついにそれに見合うような名声を得ることなく今日まで至ってしまっているように思います。

 

「Bird on a Wire」はそんな彼のディスコグラフィーのちょうど真ん中あたりに位置するアルバムで、最高傑作という評価も見かける作品です。

 

このアルバムより前から彼は、サポート・ミュージシャンにジャズ系のプレイヤーを起用したり、当時のフォーク・シーンのアーティストとしてはいち早くエレクトリック・ギターを導入するなど、音楽的にかなり先鋭的な視点を持っていましたが、「Bird on a Wire」ではそんな資質が全面的に開花しています。

 

Leonard Cohenによるフォーキーなオリジナルをサザン・ソウル調に仕立て上げた表題曲「Bird on a Wire」でアルバムの幕があがるのですが、この一曲だけで完全に彼の世界に引きずり込まれます。

どうしようもなく「孤独」という言葉が浮かび上がるような切々とした歌声に心がザワザワとします。

Joe Zawinulのエレピに導かれるバックの演奏も、緩急の表現がふくよかで素晴らしいです。

 

以降も誰かの日記を覗き見してしまったような極めて内省的なムードが続く中、m5「Soft Summer Breeze」m6「Hoboin’」ではレイドバックしたファンク・ビートが展開され耳を楽しませてくれます。続くm7はRay Charlesの言わずと知れた名曲「Georgia On My Mind」のカヴァーなんですが、Marvin GayeやDonny Hathawayなどの同時期のNew Soul系のアーティストや作品を引き合いに出したくなるような斬新かつ洗練された解釈で、ボーカル・パフォーマンスも素晴らしく、本作のハイライトとなっています。

 

極めて音楽的な充実感がありながら、やはり常に「孤独」の匂いが濃厚に漂うアルバムですが、その理由は終曲の「Love Hymn」で明かされます。

ここで彼は、自分のもとを去った最愛の妻と息子への想いを歌っています。

 

アルバムを俯瞰した後に、冒頭の「Bird on a Wire」の歌い出しの歌詞を思い出すと胸が掻き毟られるような思いがします。

 

 

Like a bird on a wire

Like a drunk in a midnight choir

I have tried in my way to be free

 

 

電線にとまる鳥のように

真夜中に群れて歌う酔っぱらいのように

僕は自分なりに自由であろうとしてきた

 

 

彼はこの作品以降イギリスに拠点を移すなどして模索の中でキャリアを継続しましたが、目立ったヒットには恵まれず、ドラッグとの関係を立ち切れないまま、1980年12月29日に39歳の若さでその生涯を終えました。

 

その3週間後にJohn Lennonの訃報が報じられ、早々に人々の記憶の片隅に追いやられてしまったことも悔やまれますが、誤解を恐れずに言うとそれもこの人らしいような気がします。

 

初めて「Bird on a Wire」を聴いた時、強烈に「孤独」を感じながらも、同時に癒されるような気持ちにもなりました。

特別な創作物が往々にしてそうであるようにこの作品にもまた、自分だけに寄り添い、語りかけてきてくれるような親密さを感じました。

歴史の中でひっそりと聴き継がれてきたこの作品に、何の巡り合わせか出会えたことに、音楽や、人の世の奥深さを思いました。

 

アウトローでアンサングな人物による、非常にパーソナルな作品ですが、僕みたいにこのアルバムに心を救われたという人は決して少なくない数存在すると思うし、これからも聴かれ続けて欲しいなと思います。

 

そんなアルバムです。

 

 

 

 

併せて聴いて頂きたいアルバム

 

・Wether Report / Wether Report (1971)

 

 

伝説的バンドの「Bird on a Wire」と同年にリリースされたデビュー・アルバムです。

 

メンバーのJoe Zawinul(Key)、Alphonse Mouzon (Dr,Per)、Miroslav Vitous (Ba)が「Bird on a Wire」にバック・ミュージシャンとして参加しています。

 

 

・Leonard Cohen /  Song From a Room (1969)

 

 

表題曲「Bird on a Wire」のオリジナルが一曲目に収録されています。

オリジナルも素晴らしいですが、サザン・ソウル調のTim Hardinバージョンは本人のキャラともものすごくシンクロしていて最高の解釈だと思います。

甲乙付け難いですが、やはり曲そのものがまず素晴らしく、懐が深いなと思います。

ぜひ聴き比べてみてください。

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

Mori Zentaro:

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Soulflex:

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