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【Yesterday Is History, Tomorrow Is a Mystery】vol.15 トラックメーカー・Mori Zentaroによるコラム

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2020.11.03

 

映画感想文 vol.03 / 「シング・ストリート」

 

 

80年代のアイルランドはダブリンを舞台にしたジョン・カーニー監督の音楽青春映画「シング・ストリート」

 

公開から4年を経て、今や傑作、名作などの評価を不動のものにしている感のある同作ですが、僕も初めて観た時から夢中になってしまった1人です。

 

初見以降も何度かリピートしていますが、いつ観ても瑞々しく爽やかな感動を覚えます。

 

 

僕がこの映画を好きな理由はたくさんあります。

劇中の時代のポップミュージックへの愛とオマージュに溢れた、魅力たっぷりのオリジナル楽曲群がなんといっても素晴らしいですし、窮屈な学園での日常や、家族との軋轢、仲間達との友情、ほろ苦くもどかしい恋愛模様などのドラマの描き方も、テンポ感と、細やかな心情の捉え方のバランスがとても良いと思います。

 

その中でも、僕がこの映画がスペシャルだと感じる一番の理由は、主人公とバンド・メンバーたちが次第に音楽活動にのめり込んでいく描写にあります

 

主人公とギター担当の少年が、出会ってほぼ間をおかずに、ちょっとしたフレーズや、歌詞の断片などの切れ切れのアイデアを持ち寄ってほとんど勢い任せに曲を作り始めるシーン。

 

初めてバンド・メンバー全員で演奏するシーン。

 

手探りでビデオ撮影を試みるシーン。

 

「曲作りしよう」と突然訪れた主人公を、「もちろん」といってギター担当の少年が嬉しそうに迎えるシーン。

 

緊張と興奮がないまぜになった初めてのライブのシーン。

 

そのどれもが生き生きと、かつ丁寧に描かれていて、観ていてとてもワクワクします。

 

最初は一目惚れした女の子を振り向かせたくてついた嘘から始まったバンド活動なのに、そこで「自分はこんなことが出来るんだ」という可能性を発見して、現実のしがらみや、心の内を音楽表現に昇華していく主人公たちの姿や眼差しはとても眩しくて、痛いくらいに胸を打たれます。

 

僕自身、高校時代は勉強そっちのけでバンド活動に明け暮れていたので、尚更感じるものがあるのかもしれませんが、多感な時期につきものの、やり場の無い鬱屈とした気分や、未来や自分自身への、期待と不安が入り混じったような複雑な心情、友達との出会いと底抜けに楽しい時間、焦がれるような恋、みたいなものは多くの人に身に覚えのあるような普遍的なものなのではないでしょうか。

 

「シング・ストリート」はそんな、人生に一度きり訪れる「青春」という刹那の季節を、とてもとても魅力的に描いた映画だと思います。

 

クライマックスとなる初めてのライブ(これが大成功のような、そうでもないような感じなのがまた絶妙で良いです)から、大胆かつ無謀極まりないやり方で、主人公とその兄とヒロインが、どん詰まりの状況を打ち破ろうとする一連の流れには、何度観ても、グッと背中を押されるような気持ちにさせられます。

 

劇中の主人公たちのような純真さやまっすぐさはもう自分の中にはないかもしれないけど、「あの頃」の感覚がひとときでも鮮やかに、自分の中で蘇るような気がします。

 

僕が初めて曲を書いたのは、まさに「シング・ストリート」の面々と同じ年頃のころのことでした。

 

学生寮の狭い部屋で、ギターを手に、歌詞のようなものを書き殴ったノートを睨みながら、ああでもないこうでもないと試行錯誤して、なんだか曲らしいものが初めて出来た時。

その曲を、初めてバンドメンバーに聴かせた時。

初めてライブハウスで、人前で演奏した時。

 

この映画を観ていると、あの頃に感じていた色んなことが、五感全てを伴って思い出されるような気がします。

 

ある時期に熱心に聴いていた音楽を、しばらく経ってから聴き返してみると、当時のことをありありと思い出す、あの感覚にとても近い感じを抱きます。

 

そういう意味でもどこまでも音楽的なセンスで作られた映画なんだなと思います。

 

行き詰まった時や、疲れた時、またこの映画を観て心を洗いたいと思います。

 

 

 

 

●Profile

 

 

Mori Zentaro

 

2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始。 以降様々なアーティストへのトラック、楽曲提供を行う。 ミュージシャン、フォトグラファー、ペインター等が集う アーティストコレクティブ「Soulflex」に所属。 Soul,R&B,Hiphop,Jazz,Funk,Electronica,Alternative Rock など、あらゆるジャンルから影響を受けた多彩な音楽性を特色とし、2017年に行われた国内最大級のトラックメイク、 ビートメイク、作曲の大会「beat grand prix vol.02」では ファイナリストに選出された。

近年ではSIRUPの他、「香取慎吾」「山本彩」「向井太一」など数多くのアーティストからの楽曲オファーが殺到。現在最も注目されるトラックメーカー・プロデューサーの1人。

 

Mori Zentaro:

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Soulflex:

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