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安田寿之:ドラマ「これは経費で落ちません!」オリジナルサウンドトラックリリース&Arturiaイベント開催記念インタビュー

INTERVIEW MUSIC

2020.04.13

 

昨年放送された、多部未華子主演のNHKドラマ10「これは経費で落ちません!」。会社経理部を舞台に描かれる人間模様が話題となった。

 

今年2月5日(水)に発売されたこのドラマのサウンドトラックを担当した安田寿之へインタビューを行った。

制作の裏側、そして本人がグループリーダーを務めるフランスの電子楽器メーカー・Arturiaの参加者体験型イベントの模様についても語られている。

 

 

 

 – まず、NHKドラマ10「これは経費で落ちません!オリジナル・サウンドトラックのリリースおめでとうございます。

今回の制作で苦労した点・楽曲制作における幅が広がったなどのエピソードをお聞かせください。

 

とても楽しく制作させていただきました。当たり前ですが、曲数が多く(3ヶ月で30曲強)マラソンのようで、ペース配分が重要でした。平均ですが1曲を3日で作曲からミックスまで仕上げること×30、それらを1つも落とすことなく進めるにあたり、リフレッシュしながらできるように、アレンジに力量が必要なリズミックな曲と作曲に力量が必要なピアノソロ曲をできるだけ交互に制作しました。と言っても、テーマ曲「New Adventure」などは中島悟監督やサウンドデザインの石井和之さんとやりとりしながら完成していったので、進行に合わせてペース配分を調整することをゲーム感覚で楽しんでいました。

 

制作の幅の広がりについては、自作では作らない方向の様々な重さのサスペンス系曲です。往年作だとBernard Herrmann、最近作だとAlexandre Desplat「The Shape of Water」や細野晴臣「万引き家族」などに親しんできましたが、自分の持ち味とうまく融合できていれば嬉しいです。

 

 

 – 安田さんといえばエレクトロニカなイメージもありますが、今回の作品で生楽器系と電子楽器系のバランスなどで意識した点こだわった点など教えてください。

 

常に、しっかりした作曲がありそれをどう自分だけのアレンジにできるか、ということを考えてきたので、自分ではエレクトロニカ系の音楽家だとは思っていないですが、一歩引いた視点やコントラストを考えると、自然にそういう要素を入れざるを得ないです。

 

今回ジャンルで言うと、ラグタイムや1920年代のジャズを下敷きにしている部分がありますが、そういう音楽は当然今時の高音や低音はないので音域的に電子音が適合しやすいです(「Swing Back Even」など)。

アコースティックピアノの消音ペダルを踏んで録音した「Lamp in Your Heart」などは、生楽器にも関わらず非常に音響的だと思います。ジャンルと共に、アコースティック/エレクトロニックという感覚の敷居が低いのが、こだわりではないですが、特徴です。

 

自宅スタジオ

 

 

 – ピアノも演奏される安田さんですが、シンセなど電子楽器はいつ頃から使用されていたのですか?

 

1980年代前半の小学校の頃、友人の持っていたSHARP製のポケットコンピュータで音符を打ち込めるのを知り、親にせがんで買ってもらったのが最初の電子音の出る機械でした。音色は1種類で、単旋律で音程/長さを並べていくだけで、間違えるとそこまで全部消さないといけなかったのですが、ワクワクしたのを覚えています。3トラック位重ねられた記憶もあり、ベース、アルペジオ、メロディなどと工夫して鳴らしていたような気もします。

 

1980年代後半には、MSXというコンピュータでカートリッジと外部音源を使って打ち込めるYAMAHAのシステムが発売されていましたが中学生には手も出ず、高校になり入手したYAMAHA DX7Sが最初のシンセサイザーでした。その後、それでバンドを組んだり、Macを入手したり、その辺りを元に電子楽器との付き合いが続いています。

 

 

 – オリジナル作品、CM、劇伴と多方面で活躍されていますが、劇伴制作(今回の制作で)で意識している点はありますか?

 

やはり独立した音楽ではないので、いかに物語を補助し立ち上げることができるか、ということです。今回、生ピアノをメインの楽器にしているのは、視聴者との橋渡しに馴染みの音色が必要だと感じたからです。元来何の音かわからないシンセティックな音は大好きなのですが、そういう音色をメインに使った音楽だと独立性が高すぎると思います。

 

ただ、影響を受けてきたPiero PiccioniやNino Rota作のように、単独できいてもストーリーを想起できるような重層的なものにできれば、と奮闘しました。

 

自宅スタジオ

 

 

 – 「これは経費で落ちません!」オリジナル・サウンドトラックの聞きどころなど注目してほしい点あればお願いします。

 

ピアノを多用し、ストリングスやブラスなども用い、自分ではかなりオーセンティックな音色でアレンジしたつもりでしたが、「劇伴ぽくない」というご感想もいただきます。ロボ声で経理用語をひたすら歌っている曲や、凝ったグラニュラー音響処理をした曲などもあり、その通りかもしれません。

 

少し専門的な制作プロセスの話ですが、劇伴の場合、作編曲、録音した後の仕上げ(ミキシング)の作業はエンジニアが行うことが一般的なようです。僕の曲は楽器構成もハイブリッドかつ特殊で意図を説明する時間が必要になるため、普段からそこも自分で行っています。今回ハードになることはわかっていましたが、いずれにしても時間が必要ならば、といつも通りワンストップで行いました。エンジニアの仕上げには間違いのなさという利点がある一方、音楽家自身が行うミックスには衝動や迷いなども含めイメージを克明に残すという特徴があります。

 

ウィットと優しさを通底させた多様性のある作曲と音色を、ピアノでまとめた音楽。要約するとそういうことになると思いますが、皆さんがストーリーに入り込める助けになったなら幸いです。

 

Arturia公式ユーザーグループイベント東京 Volume. 1にて。

糸魚健一、安田寿之、soma hayato

 

 

 – 次にArturia公式ユーザーグループイベントについてですが、ユーザーグループリーダーの安田さんはどういった経緯で参加されるようになったのでしょうか?

 

Arturia社のメキシコ支社からご依頼がありました。なぜそこから?と言うと、東京に住むメキシコ人の友人に「東京でユーザーグループを取り仕切る音楽家は居ないか?」とそちらから問合せがあり、推薦していただいたという経緯です。日本の代理店であるコルグ社にご協力を要請し、多大なサポートをいただき実現しています。

 

 

 – 使用されているArtruria製品(お気に入りなどあれば)教えてください。

 

ハードウェアだと、DrumBrute Impactというドラムマシーンが各音色の設定やパターンのランダマイズやポリリズムなどが簡単に行え、気に入っています。ソフトウェアだと、V Collection 7にArp、Buchla、Farfisa、Mellotron、Prophetなど往年のシンセ系が25種類も入っていて、特定のシンセの音色を狙って使う場合とても便利です。

 

Arturia公式ユーザーグループイベント東京 Volume. 2にて。

Yumi Iwaki、安田寿之

 

 

 – 今回はユーザー参加型ということで、どういう狙いがあったのですか?

 

20世紀に調和和声による情動表現や音楽の科学合理主義により確立された「上演型音楽」が、音楽ビジネスや音楽教育の根幹でした。それが通用しなくなったことで、音楽業界で様々な衰退が起こってきました。そこから除外されてきた多様な「参加型音楽」を今の時代に合わせて鳴らすことが、音楽の未来の一つだと信じています。

 

例えば、こういう音楽。

民俗藝能/祭り囃子、カーニバル、打楽器音楽、電子音楽、エレクトロニカ、アンビエント、サウンドスケープ、即興、労働歌、ブルース、ガムラン、宗教音楽(霊歌/ゴスペル/声明/神楽/雅楽)、その他・現象(ダンスミュージック/カラオケ/アイドル)など

 

祭り囃子、労働歌、宗教音楽などは、参加する音楽として想像しやすいと思います。意外かもしれませんが、電子音楽もまさにその一つです。専門的な音楽教育を受けなくても、簡単な操作方法の機材ですぐに演奏に加わることができます。電子音楽にも機材にも縁はなかった、という方に来ていただき興味を持っていただければ、という意図で参加型イベントを行いました。

 

 

 – イベントを終え予想外だった点などはありましたか?

 

4時間という長丁場の時間設定にしたのは、一定時間参加されて帰る方が多いだろうと思っていたからですが、最初から最後まで滞在される方がほとんどで嬉しい驚きでした。

 

また、参加型と言っても積極的に参加される方は少ないかなと思っていましたが、持ち込みの楽器でセッションされる方も多く有意義でした。基本的にはライン出力できる電子楽器を持ち込み可にしていましたが、ハーディ・ガーディ(ホイールで弦を擦るヴァイオリン)で参加希望された方も居られて、予想外でした。もちろん、喜んでご参加いただきました。

 

 

 – 次回のイベント予定やお知らせがあればお願いします。

 

2/22はぎりぎりのタイミングで開催できましたが、以降コロナウイルスの影響で全くイベント関連の目途が立たない社会情勢になりました。このシリーズも次の予定は立ちませんが、参加型のまま展開したいとは思っています。とにかく、この情勢が無事収まることを祈りつつ、元の世界には戻れなくても音楽が社会に貢献できることを追究していきます。

 

参加レポート(Rock oN Company)

参加レポート(デジマート)

 

 

 

●Release information

 

NHKドラマ10「これは経費で落ちません!」

オリジナルサウンドトラック

 

価格:¥2,750(税込)

作曲/編曲・安田寿之

 

購入はこちら

Amazon

iTunes

 

 

 

●Artist Profile

 

 

安田寿之

 

コンセプチュアル作からシンガー・ソングライター的な作品まで、多様な制作を行う。5thアルバム「Nameless God’s Blue」では、J-Waveチャートにて6週にわたりランクイン。2019年のNHKドラマ10「これは経費で落ちません!」の音楽も話題になった。Towa Tei、Atom Heart、Clare and The Reasons、Fernanda Takai(Pato Fu)らと、内外・ジャンル問わず共作・共演を行う。TV、CM、中野裕之監督映画、篠山紀信写真映像作品、桑原茂一コメディ作品、パフォーマンスなどへの制作も多数。社会変革の中、音楽家が社会の一員として自覚を持ちどう社会貢献できるのか考えることをライフワークとし、既成概念を打破する新しい音楽制作/公表方法などを実施している。元FPM。Arturia公式ユーザーグループ東京リーダー。武蔵野音楽大学にてコンピュータ音楽を教える。

 

安田寿之オフィシャルサイト