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「ジャパニーズKC発、デジタル世代が追求するオールド・ニュー。」r(アール)
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2021.07.15
ここ20年近くにわたり、過去の遺物と化していた「カセットテープ」。
ところが、2010年代後半にカセットテープの本格的なムーブメント再来の兆しが日本でも見え始め、今でもその熱は消えそうにない。アナログ固有の音の質感を好むムーブメントが醸し出すその熱量という観点では、昨今の「レコード」にも同じことが言えるだろう。
「カセットテープ」や「レコード」が爆発的な再ブームを巻き起こしたとは言えずとも、音楽ファンにとって重要なことは、いつだって「規模」ではなく「魅力」なのである。
今回のSuppage PRESSでは、神奈川県・横浜市を拠点に、レコードやカセットを中心にカセットプレーヤー、アンティーク家具などの販売を行っている「r(アール)」に注目。
店主のナカムラ氏へインタビューを行った。
– まずは、ブランドが立ち上がるまでの道のりをお聞かせください。
元々、私は20代の頃から輸入したレコードの販売を通販サイトで行っていました。
今でこそレコードが盛り上がっている雰囲気が巷でありますが、00年代の半ば頃からネット上で簡単に音楽を楽しむ事が出来ような時代になってきて、自分が販売しているレコードの音源もネット上で聴けるようになりつつあったため、今後を見据えていくと「レコードだけだとこの先はやばいかもな」というような危機感を持つようになっていきました。
– はじめは通販サイトを運営されていたのですね。
はい。それで、「これまでのようにレコードだけを販売するのではなく、レコードを好きな方たち以外にもレコードで音楽を聴くことを広めていきたい」と思い立ち、自分が好きなアンティーク家具の取り扱いを始めることになります。
自分もそうですが、インテリアが好きな人は家にいる事が好きな人達だと思うので、部屋でレコードを聴くという事とインテリアはセットになりえると思いました。かつては、どの家庭にもレコードプレーヤーが部屋にある時代がありました。という事はレコードプレーヤーを置くようなキャビネットやレコードを収納するような棚などの家具も当たり前のように家庭の中にありましたのでお世話になっている知り合いの家具屋さんへお願いして、当時、レコードプレーヤーを置くために使われていたようなキャビネットやレコードを収納できる家具をヨーロッパから仕入れて貰い通販サイトで”レコード家具”というカテゴリーを作って販売することにしました。
そうしていく中で、通販だけでなく、家具を実際に見る事が出来て、実際にレコードで音楽を聴いてもらえる店舗的なスペースが欲しくなってきました。場所を探していると、私の自宅から近いこのスペースを大家さんが貸してくださることになり、ぼろぼろの倉庫状態からリノベーションを行って「r(アール)」は2016年の7月の末にオープンしました。
店内に並ぶレコードやカセット、
カセットテーププレーヤーたち
– 建物自体もガレージ感があって素敵です。
ありがとうございます。天井が高い建物はなかなかないので、とても気に入っています。
– 店舗を構える場所はこの辺りで探されていたのでしょうか?
当時、グラフィックデザイナーの奥さんも自分と同じように自宅で仕事を行っていたため子供が生まれてからは家が手狭になり、店舗としてはもちろん事務所のように仕事ができる場所を探していました。自宅からも近いこの場所だったらお互い事務所的に使えると思いましたし、とにかく自宅から近かったというのが最初の決め手としては大きいですね。
– レコードの通販サイトから始まった御社ですが、カセットテープやカセットプレーヤーの販売を行うようになったきっかけはどういったものだったのでしょうか?
2000年代の後半くらいから、アメリカのアーティストがカセットで音源をリリースするようになりました。レコードの輸入を行う中で、取引先からカセットテープのリストも一緒に送られてくるようになり、私自身興味はあったものの、その当時の日本にはカセットで音楽を聞く文化はほとんど廃れていて、カセットテープを仕入れてもそもそも再生する良い機器があまりない印象を持っていました。
家電量販店へ行きその当時の現行のカセットプレーヤーを購入し聴いてみたのですが、個人的に音はもちろん、ものとしてのデザイン性にもあまりピンときませんでした。アメリカに住んでいる現地の友人は「アメリカではまだ普通に車にカセットプレーヤーがついているので、みんなそれで聴いている。」というような話を聞くと「やはりアメリカと日本ではそういったライフスタイルも異なるので、日本ではカセットはちょっと難しい」と感じ、お店ではカセットテープの販売はしないほうがいいと考えていました。
しかしあるとき、Panasonicの「SHOCK WAVE」やSONYの「Sony Sports」など90年代に自分も使っていたようなカセットプレーヤーを再び手に入れる機会が訪れました。それらのプレーヤーで久しぶりにカセットを視聴してみるとレコードで聞くのとはまた違って、音も現行のカセットプレーヤーとは比較にならないほどよくて、「これは当時のカセットプレーヤーを直す事が出来ればチャンスがあるかもしれない」と可能性を感じ、それからは古い当時のカセットプレーヤーも仕入れて修理し、販売することになりました。
– なるほど。そういった巡り合わせがあったのですね。
今現在取り扱われているカセットプレーヤーはどういったものがありますか?
今カセットに興味を持っている人たちの中で圧倒的に人気があるのが「Sony Sports」シリーズです。個人的には国内ではあまり知られていないようなアメリカの「サウンドデザイン」などのちょっと変わったものが好きです。デザインも含めてこのあたりを本当は推していきたいのですが、ニーズがあるのは圧倒的に「Sony Sports」ですね。
Panasonicの「SHOCK WAVE」
SONYの「Sony Sports」
SOUND DESIGNのラジカセ
-「Sony Sports」は見た目もかわいらしいですよね。
そうですね。それに加えて、音の好みもあるとは思いますが国内の家電量販店で購入できる新品のプレーヤーよりも音が良いです。
– 並んでいる商品を見ると、お値段がかなりリーズナブルな気がします。
価格設定は出来るだけおさえています。
例えば、同じソニースポーツでも型が違えばデザインはもちろん⾳も全然違います。スニーカーのようにその日の気分で外に持ち出すプレーヤーも聴く音楽やファッションに合わせて変えるのもコレクションするのも楽しいと思っているので、なるべく購入しやすい価 格を心がけています。
– 取り扱っているレコードやカセットテープの音楽ジャンルにこだわりはありますか?
取り扱っているのは主に新品の輸入品で、店舗で一番取り扱いたいのは海外で現在活動しているアーティストの音源です。ジャンルとしてはインディーポップやパンクやパワーポップの取り扱いが多く、自分自身も好きなジャンルです。実際に海外のバンドを直接やりとりをして輸入することもありますので、自然とバンドにも愛着が湧いてそのようなバンドの音源はプッシュしたくなりますね。
私が推しているのが、アメリカにあるカンザスシティ(ミズーリ州)のバンドたちです。カンザスシティのバンドやレーベルは、「KC」という地名のイニシャルがインスタグラムのアカウント名に入っていたりしてローカルでみんなつながっていたり、それぞれの人たちがサポートしあっていろいろな事が動いている感じがうらやましく思えたり、なんかいいなと思っています。
お店の住所は駒岡という地名なのですが、近くの交差点の名前が「駒岡町(こまおかちょう)」となっていて、これはイニシャルが同じ「KC」だと気づいたんです。しかし、自分のお店はライブをやっていた時代からあまりこの辺りに住んでいる古い地主の人達からは気に入られていない事もあり、自分も駒岡の町内会からも脱退しているのでkomaoka choではなく、kansas cityへの憧れの思いも込めて架空のシティ「komaoka city」と勝手に名付けました。
kansas cityのアーティスト達に自分の街も「KC」だと伝えると、「お前もKCなのか?」という感じですごく乗ってきて、KCのバンド同士でコンピレーションカセットを作ろう!」と提案されたのですが生憎日本のKCにはバンドが全く居らず、実現できるかはちょっとわからないです・・・。(笑)
「r(アール)」のロゴと「KC」がプリントされた
オリジナルの缶バッチ
「R」のオブジェ
– シンプルな響きのショップ名ですが、「r(アール)」の由来はあるのでしょうか?
レコードの通販サイトは私の好きだったStool PigeonsのI gotta dream on(オリジナルHerman’s Hermits)という曲名から拝借して「Dream On Records」という名前で運営していたのですが、店舗の名前はもっとわかりやすいものがいいと思っていました。
元々所有していた「R」の形をしたアンティークの大きなサインをお店で何かに使いたいと考えていて、よく考えてみると、「record」という単語は「r」が頭文字で、そしてこの建物の前には川が流れているので「river」の「r」、そして、その河川敷を走っている人たちもいて「running」の「r」、お店に来てくれた方々にはリラックスしてほしいという思いから「relux」の「r」など、「r」が頭文字の単語に自分が思う良い言葉が多かったので、「だったらそのままそのサインを看板にすればよいし、”r”にしよう」となりました。
– なるほど。元々持っていたオブジェから着想されたとは驚きですし、偶然にもショップのテーマとオブジェがマッチされていたんですね。
そんな「r(アール)」はレコードやカセットテーププレーヤー、アンティーク家具の販売以外にもアパレル等幅広く展開されていますが、こちらは全てナカムラ様のセレクトなのでしょうか?
そうですね。基本的には私が良いと思ったものを販売しています。あまり大々的には行っていないのですが、ポップアップができるスペースもあるので知り合いのアパレルブランドや古着屋さんに出展いただくこともあります。
– ポップアップストアもされているのですね。
以前、「r(アール)」の営業日は土日のみとなっていて、平日は元々お客さんとして「r(アール)」へ来てくださっていた古本屋の中村さんへ間借りでスペースをお貸ししていました。私と名字が同じなので、登場人物がややこしくてすいません。(笑)
当時、中村さんは「Frobergue(フローベルグ)」というお店の名前で通販サイトのみで古本の販売を行っており、「将来的にはお店を出したい」と話されていました。平日は自分がお店を使っていなかったので、「それなら”r(アール)”のスペースを是非活用してほしい」という話になり、それから1年位程は間借りで使ってもらっていました。そしてついに、今年の2021年1月に中村さんは蔵前にという実店舗をオープンしました。「Frobergue(フローベルグ)」の古本がなくなってしまいスペースが出来てしまったので、新しい取り組みとして今年の2月からポップアップストアとしておこなっている、という経緯ですね。
インタビュー日に行われていた
「HER NEON」のポップアップストア
– 「r(アール)」ではカフェも併設されていますね。
自宅から近い場所で店舗を構えることができたものの、駅からは少し離れているため、アクセスの悪さは課題でした。また、レコードやカセットプレーヤー、アンティーク家具等の販売となると、はじめから目的を持って来店されるお客様がほとんどなので、音楽や家具に興味を持ってもらえなかった場合に再来店へ繋げることへの難しさを感じていました。
そんな中、まずは気軽にお店に立ち寄って欲しいという思いから、サンドイッチやドリンク等のカフェメニューを取り入れることを考えました。カフェ的な要素があれば、お店がよりオープンな場所になり、カフェから「r(アール)」に入ってもらい、そのうちレコードなどにも興味を持ってくれるではないかと思いました。
– なるほど。カフェは呼び水的な意味があったのですね。
因みにメニューはどのようなものを提供されているのでしょうか?
食事の提供はサンドイッチからスタートしました。
サンドイッチは日本だと焼いていないパンで食べるのが主流ですが、「r(アール)」で提供しているサンドイッチはアメリカやカナダで食べられている「グリルドサンド」というパンを焼いて作るサンドイッチになります。
スタッフのサトウくんがカフェに入ってくれるようになってからは、「チキンオーバーライス」というライスメニューも提供するようになりました。他にも、「チリオーバーライス」や「ハンバーガー」もあります。平日の水木金の3日間はライスメニューが軸で、土日はグリルドサンドを提供しています。
クレードチーズ
チキンオーバーライス
-「r Tapes」というレーベルもやられていますね。どういったきっかけで発足したのでしょうか?
きっかけは、私が好きな海外アーティストのカセットテー プ をリリースしたいと思ったこ とでした。今年の8月頃には「果樹園」というバンドのカセットをリリースします。 「果樹園」は2020年に結成した、韓国のアー ティス ト・Mellow Blushと、⽇本のアーティスト・ミヤオウによるオンライン・デュオユニットなのですが、⼆ ⼈はまだ直接会っ たことがなくリモートで曲を作っているバ ンドです。すでにSPOTIFYなどで聴くことも出来ますが、彼らの音楽をカセットで聴けたらきっと素晴らしいだろうと思っているので、今は出来上がって工場から送られてくるのを楽しみにしています。
「r Tapes」としては久しぶりのリリースになりますので、ぜひ聴いてみてください!
– リリースが楽しみですね!
今後の「r(アール)」の展望をお聞かせください。
海外現行のバンドがリリースしているレコードやカセットなどの音源の新しい入荷が毎週ある状態というのが一番の理想です。ただ、プレーヤーを所有してる人がいなければカセットテープもレコードもなかなか買ってもらえませんよね。そこでここ数年はプレーヤーに焦点を絞って販売してきました。もう少ししたらカセットテープやレコードの売り上げが店舗売り上げのメインになるくらい力を入れて、そこにカフェもバランスよく融合出来たら最高です。
– 最後に、読者へメッセージをお願いします。
お店は少し辺鄙な場所にありますが、その分ゆったりとした時間が流れていると思いますのでぜひご飯を食べに来たり、カセットプレーヤーに興味がある方はどのプレイヤーも試聴が可能ですので、遊びに来てもらえたらうれしいです。またお店は撮影でもお貸ししているので、何かで使ってみたいと思って頂けたら是非ご連絡下さい。どうもありがとうございました!
●Shop Profile
r(アール)
「良いと思うもの。捨てないもの。使い続け受け継いでいけるものを音楽とともに提供したい」という思いから、オンラインレコードショップの実店舗として2016年7月に神奈川県・横浜市にオープン。以降、レコード、カセットプレーヤー、アンティーク家具などの販売を行っている。カフェが併設されており、店内やテラス席ではサンドウィッチやコーヒー、アルコールなども併せて利用することも可能。また、レーベル「r Tapes」を展開。Mac Demarcoが過去⾳源でレコーディングを担当したこともあるNY在住のアーティストTall JuanのカセットEP 「JOYA NEDO」を r Tapesより第一弾としてリ リースした。